日本科学未来館、地球規模の問題を可視化

日本科学未来館、地球規模の問題を可視化

大型球体ディスプレイ「ジオ・コスモス」を HDR に刷新

気温上昇、異常気象、海洋汚染、貧困、貧富の格差、世界各地での紛争など、私たちは今、様々な地球規模の問題に直面しています。東京都江東区青海の日本科学未来館 (以下、未来館) では、こうした地球規模の問題への理解を広めることを目的に、株式会社電通、三菱電機株式会社、株式会社ジイケイテック、株式会社ゴーズのジョイントベンチャーにより大型球体ディスプレイ「ジオ・コスモス (Geo-Cosmos) 」をリニューアルしました。

今回のリニューアルでは、1,500 nit のピークディスプレイ輝度、HDR (ハイダイナミックレンジ)、WCG (広色域) 、HFR (高フレームレート) により、来館者を一瞬で球体の地球映像に惹き込む演出を実現しました。

日本科学未来館 科学コミュニケーション課マネージャーの瀬口 慎人氏と、株式会社ゴーズ エグゼクティブプロデューサー兼チーフテクニカルプロデューサーの堀田 豪氏に、今回のリニューアルについて AJA 機器の導入を含めてお話を伺いました。

日本科学未来館

未来館の特徴と、瀬口氏の同館での役割を教えてください。

瀬口氏

2001 年に開館した未来館では、科学技術を文化的な視点で紹介しています。科学の専門家と一般市民の架け橋となって科学の進歩に対する相互理解を促進する、未来志向の博物館です。来館者が、科学の社会的な役割について考え、議論できるよう働きかけています。

また、未来館は科学コミュニケーターのトレーニングハブとしても機能しています。私は科学コミュニケーション課のマネージャーとして展示やイベントのプロデュース、展示システムやコンテンツの開発、新たな企画の立ち上げなどを担当しています。ジオ・コスモスなどの展示やビデオコンテンツを定期的にアップデートするのも、科学コミュニケーション課の仕事です。

ジオ・コスモス

今回のジオ・コスモスのリニューアルについて教えてください。

瀬口氏

今回のリニューアルでは、来館者に現代の環境問題を再認識してもらえるよう、鮮やかな HDR 画像と映像を駆使し、よりリアルな光で地球を表現しました。 また、気象衛星からの雲画像に新たな手法を用いて、刻々と変化する地球の姿をビジュアル化しました。さらに、ベースマップと呼ばれる背景画像では、極地の氷や植生の変化など、季節ごとの色彩の変化が今まで以上に細かく表現されています。

今回の JV プロジェクトには、未来館、電通、三菱電機、ジイケイテック、ゴーズから 70 人以上の専門家が参加しました。JV チームは、10,362 枚の LED ディスプレイパネルを張り替え、球体内部の機材を設置し、数万本の配線と設電気工事を完了させました。さらに、映像・音響・グラフィックス・制御システムを刷新し、より豊かで深みのある色彩、広い輝度コントラスト、滑らかな映像を実現しました。今回のリニューアルでは HDR、WCG、HFR のコンテンツを可能にするため、FS-HDR など AJA の最新技術を導入しています。

ゴーズと未来館の関係を教えてください。

堀田氏

未来館で実施されるプロジェクトは、その多くが公募よるコンペ形式です。 2001 年の初代ジオ・コスモスのプロジェクトで、私はテクニカルプロデューサーを務めました。電通、電通テック、ジイケイテック、ヒビノから成る 4 社のジョイントベンチャーで、日亜化学工業の 3mm ピッチ SMD LED パネルを提案し、受注に至りました。

2002 年に GOES New York, Inc.、2003 年に株式会社ゴーズを設立し、その後再びチームに参加しました。 両社は、技術的なプロデュースやディレクション、プロジェクトマネジメント、導入時の運用サポートなどを行いました。

完成から 10 年後、未来館は老朽化した表示装置や機器を更新したいと考え、『ジオ・コスモス2』のコンペを実施しました。このコンペでは、電通、三菱電機、ジイケイテック、ゴーズの 4 社 JV チームが、有機 EL パネル、アルミニウム躯体、1,000 万画素以上の解像度を提案し受注することができました。しかし、完成の直前に東日本大震災に見舞われ、ジオ・コスモスは破損した有機 EL パネルの修復に数ヵ月を要したのです。

そして2021 年、有機 EL パネルの経年劣化が著しくなり、未来館は新たなジオ・コスモスのコンペを開催しました。

プロジェクトのどのような点に魅力を感じましたか?

堀田氏

ジオ・コスモスは、単に地球の地形を見せるだけの展示ではありません。アートと科学を融合させたユニークなプロジェクトです。地球を取り巻く状況は極限に達しつつあります。ジオ・コスモスを一新することで、来館者にそうした問題を目で見て感じてもらうことができます。私たちはジオ・コスモスの設計とその後のアップグレードに携われることを大変嬉しく思っています。当社は、コンテンツ制作、演出、プロジェクト管理、大規模なシステム設計、特にジオコスモスのような困難で独創的なプロジェクトが得意分野ですから、このプロジェクトに関われることに大きな魅力を感じました。

ジオ・コスモス システム

ジオ・コスモスのリニューアル作業では、どのよう課題がありましたか?

堀田氏

ジオ・コスモスのプロジェクトでは最新の映像仕様やコンテンツ制作を学び、システムを構築するための技術をしっかりと理解して、それぞれを連携させる必要がありました。従来の規格である SDR (Rec.709) は、今回の要求仕様に対応できないと判断して、各所で最新の技術を採用しました。

一方で最新技術を採用した映像関係の製品は複雑化 / 多様化が進んでいます。我々の要求に対応する製品は限られていて、AJA 製品には大きな期待が有りました。AJA の技術は安定していて、信頼性が高く、セットアップが簡単で効率的です。AJA の機器は、提供されるドキュメントや SDK と同様に時間の節約に大きく貢献しました。

さらに、こうした技術的な課題とは別に、タイトなスケジュールや、世界的なサプライチェーンの混乱による製品不足といった深刻な課題にも対処しなくてはなりませんでした。

技術的な課題はどう解決されたのでしょうか?

堀田氏

我々はジオ・コスモス 2 の設計制作チームでしたから、有機 EL パネルの耐用年数や交換の必要性は事前に想定していましたから、早い段階から新しいジオ・コスモスのコンセプト開発に着手しました。想定されるシステム構成、設置スケジュール、コスト、来館者の視点を検証するコンピューターシミュレーション、HDR や WCG などの最新技術に関するワークショップへの参加、AJA をはじめとするベンダー各社との打ち合わせなど、様々な視点で検討を行い、そこから洗い出した課題を精査することで、プロジェクトをスムーズに進行することができました。

FS-HDR / KUMO 1616-12G

現在ジオ・コスモスを動かしている技術仕様を教えてください。

堀田氏

ジオ・コスモスのコンテンツは、最初に 6,204 × 3,102 の解像度、HDR (HLG または PQ)、Rec.2020、59.94Hz の 正距円筒形図法の OpenEXR 静止画像ファイルとし制作されます。この画像ファイルは Windows ワークステーションでジオ・コスモスのパネルレイアウトに変換されます。

次に8K 解像度の上半分を使用した HEVC (H.265) 8K ビデオに変換されて、最後に最大 8 チャンネルのオーディオが HEVC (H.265) .mp4 ファイルに付加されます。そして、この .mp4 ファイルが アストロデザインと一緒に開発した 8K レコーダー / プレーヤーに転送されます。

再生時には 、8K プレーヤーから出力された 2 つの 4K シングルリンク 12G-SDI (2 Sample Interleave  : 以下、2SI) が、AJA KUMO 1616-12G ルーターへと入力されます。KUMO の出力は SFP モジュール (HDBNC-2TX-12G) を搭載した 2 台の AJA FS-HDR に入力されます。FS-HDRで最終的な調整を行った後、2 台の FS-HDR から合計で 8 本の 3G-SDI (Quad Link) 信号が出力され、光ファイバーに変換されてジオ・コスモスに伝送されます。音声については、SDI 信号にエンベッドされた音声信号は KUMO の別のチャンネルから出力され、デマルチプレクサへ送られます。映像の品質管理は KUMO に接続した 複数の 4K UHD モニターで行っています。

また、ジオ・コスモスはハイスペックなノート PC など、外部からの 4K リアルタイム映像の再生にも対応しています。正距円筒形図法で制作された 4K コンテンツは、外部の PC から HDMI 信号で Windows ワークステーション上の AJA KONA HDMI キャプチャカードに入力されます。ワークステーションでは、ジオ・コスモスのネイティブ解像度 (6K × 3K) のジオ・コスモス パネルレイアウトに変換され、AJA KONA 5 I/O カード経由で 2 本の 4K SDI (2SI) に出力。KUMO 1616-12G へ入力される構成です。

HDR のテクノロジーがリニューアルの決め手となった理由を教えてください。

堀田氏

上空に浮かぶ雲や、北極・南極を覆う氷原と地表や海の対比という高いコントラストを正確に描写するには、HDR の映像が必須です。雲の輝度は高度に応じて微妙に変化するので、それを表現するためにも HDR の広いダイナミックレンジは欠かせません。博物館のように外光の混在した明るい場所でも使用できるディスプレイ機器は、年々輝度が高くなっています。高いコントラストで画像を美しく表示するには、広いダイナミックレンジが不可欠なのです。

とは言え、HDR を扱うのは簡単ではありません。クリエイターの意図や制作環境の違いによって、コンテンツが期待どおりに見えないことも珍しくないからです。また、アーティストの作品では見せる環境に合わせて都度補正する必要があります。

そのような要求に対して、AJA FS-HDR は強力なツールです。細かい補正やプリセット機能があり、博物館内の明るさに応じて、必要に応じて個別に画像を変更することができます。

ジオ・コスモスと同様のプロジェクトに着手しようとしている博物館へ、アドバイスがあればお願いします。

堀田氏

世界の変化は急速で、毎日のように新しいテクノロジーが生まれています。我々のような仕事には俊敏性と柔軟性が肝心で、世界の進歩に応じた対応力が重要だと思っています。ジオ・コスモスのような最新技術を利用したインスタレーションはやがて、世界中の博物館に広まるでしょう。皆さんには来館者の体験をさらに高めるような最新技術に是非挑戦して頂きたいと思います。

取材協力

日本科学未来館
株式会社ゴーズ

AJA Video Systems について

1993 年の創業以来、AJA Video Systems 社はプロフェッショナルな放送、ポストプロダクション業界に向けて高品質でコスト効率の高いデジタルビデオ製品を供給する、ビデオ インターフェイスや変換ソリューションの大手メーカーです。AJA 製品の設計・製造はカリフォルニア州グラスバレーにある自社の施設内で行われ、世界中のリセラーやシステム インテグレーターを通じて広範囲なチャネルに販売されています。詳細については、同社のウェブサイトをご覧ください。

# # #

当資料は、現地時間 2022 年 12 月 15 日にメーカー発表されたユーザー事例の抄訳版です。

メーカーリリース原文 : https://www.aja.com/news/story/2106-miraikan-museum-visualizes-global-issues

プレスリリースその他のニュースは、発表日現在の情報であり、時間の経過または様々な後発事象によって変更される可能性があります。あらかじめご了承ください。

トレードマーク付きの会社名や製品名は、それぞれの会社の商標です。

関連情報

日々進化する放送技術に対し、AJA は世界中の放送、制作、ポストプロダクション、システムインテグレーターが将来に渡って使用できる技術を提供しています。

AJA 製品を扱っている販売会社は、以下の購入先情報からご確認いただけます。また、AJA-JP では購入前に製品を実際に確認できる、評価用の機材を無料貸出しています。

Copyright © 2021 AJA-JP