| 撮影コスト、時間的制限下でクオリティとスピードを保つために、Ki Proを採用 「深夜枠の番組ということもあり、HDCAM-SRで撮影したり非圧縮のシステムでワークフローを組むのは、コスト的にも時間的にも厳しい状況でした。そうはいっても可能な限り綺麗な合成を行いたいという編集部の意向があり、ちょうどKi Proが発売になる時期だったので、できればこれを使いたいと思いました。Ki Proの出荷が撮影に間にあうのかとか新しい製品なので導入して即実践投入には不安もあったんです。いくら合成を綺麗にしたいからといっても撮影部にお願いして導入した結果、それによって現場が混乱したり、トラブルがあって撮影の進行に影響を与えては元も子もないですからね。」(鈴木氏) 「期待と不安を抱えながらも撮影部ともやしもんのロケハンに同行したとき、一緒にいったカメラマンとKi Proの話題になり、そのカメラマンもKi Proを使ってみたいという考えがあることがわかりました。」(森田氏) 「VEも経験していたカメラマンだったので、合成を前提にした場合にはどのようなことが重要なのかをわかってくれていたのだと思います。新しい機材への好奇心というのもあるかもしれませんが、元々こうした製品や技術に造詣が深い人だったということもありますね。」 ![]() もやしもんでは菌が肉眼で見える主人公とともに100種類以上の菌がCGキャラクターとして登場する(© 石川雅之・講談社/ドラマ「もやしもん」製作委員会) 新たな機材を導入する場合、その機材が重要なポジションにあるものほど、現場的には保守的になってしまうものである。新規に導入した機材が現場でトラブルを起こしたり、今までの作業の流れを大きく変えなくてはならなくなったりでは、柔軟な対応が必要な現場では使い物にならない。ましてや、撮影の現場ではどんなトラブルがあるかわからない。現場の人たちは使い慣れた機材と経験でこうしたトラブルに対処していく。出荷されたばかりのKi Proを実践投入し、何事もなく撮影は進行したのだろうか。 重大なトラブルはなく、ProResフォーマットで記録できる恩恵は大きかった 「もちろん事前のテストはある程度してから現場で使いました。それでも想定外のトラブルというものはあるもので、電源が落ちたりファイルナンバーが一巡してしまったりということがありました。電源はだいぶ使い込んだバッテリーが原因とわかりましたし、ファイルナンバーもリセットする方法がわかり、Ki Proが原因で現場が止まってしまうような重大なトラブルはなかったですね。」(岩本氏) 「それよりもProResフォーマットで記録できるという恩恵は大きかったですね。Ki Proを導入した理由というのもそこにあるんですけどね。」(森田氏) 使い勝手や信頼性というものは現場でのこうしたトラブルを乗り越えて確立されてくるものだ。もちろんそれだけの価値がなければ意味がない。 ![]() もやしもんの撮影ではソニーPMW-EX3やKi Proが活躍した(© 石川雅之・講談社/ドラマ「もやしもん」製作委員会) ![]() もやしもんの制作で中心的な存在の岩本 晶氏と森田 淳也氏 ![]() 左からディレクター 岩本 晶氏、ディレクター/VFXスーパーバイザー 森田 淳也氏、システム部部長 鈴木 勝氏 |
編集はMacベース(Final Cut Pro)の環境を構築することで、効率的にProResを運用 「カメラはPMW-EX3だったので、合成の必要のない部分はEX3のフォーマットでも編集できるように当初はEDIUSやPremiereで編集しようと思っていたんですが、Windows版のPremiereがProResのガンマを正確に認識してくれなかったり、EDIUSだとHQコーデックへ変換が必要だったりと編集や合成を行う上で、不利な要素があったんです。合成部としては変換に伴う時間やわずかとはいえ画質の劣化が懸念される変換は最小限にしたいと思っていましたから。そこで、ProResと最も相性のいいFinal Cat Proで編集を行うことにしたんです。Mac Proで編集して素材整理などを行うサブとしてiMacを使うことにしました。結果的にProResだと両方で再生できてプロジェクトデータなどもそのままやりとりできるし、両方にバックアップがあるという安心感からMacベースで環境を構築したのは正解でしたね。」(鈴木氏) ProResは元々Final Cut Proが採用しているコーデックであり、それをAJAがビデオカードやIo、そしてKi Proで採用したものだ。Apple社と関係の深いAJAが編集フォーマットであるProResを収録フォーマットに採用したのはこうしたワークフロー上のメリットを見越してのことといえるが、合成を伴う作業の場合でも収録から合成までのフロー上のメリットは大きいと森田氏、岩本氏は語ってくれた。 「今までの経験からもProResは非圧縮と比べて遜色がないことはわかっていたんです。だからこそKiProを使ったんですが、綺麗に合成できるだけでなく、ワークフロー上のメリットも大きいですね。非圧縮だと再生してプレビューするだけでもそれなりの環境が必要になりますし、ファイルの容量も素材を含めるとすごいことになる。ProResはラップトップでも再生できますし、データー量が軽いのでデーターのポータビリティといった点でもメリットがあります。こうした見えないところでコストを下げられるのは魅力ですね。Ki Proはもやしもんのような合成ものだけでなく、出来上がった作品の受け渡しでも活躍していますよ。」(森田氏、岩本氏) Ki ProはAJAのコンバータやキャプチャーカードに搭載されているものと同等の変換機能や豊富な入出力が備わっている。入出力にはアナログコンポーネントやHD-SDI、HDMIなど各種装備されているので、今回のようにHD-SDI出力が装備されたカメラだけでなく、様々なカメラで収録可能だ。また収録されたファイルもHD-SDI、HDMI、アナログコンポジットなどで出力することが可能なので、あらゆるモニターで画像を確認することができる。非圧縮と遜色のないProResというフォーマットが再生環境やポータビリティといったメリットを提供するだけでなく、こうした汎用性を備えたKiProは単なるレコーダーとしての用途を超えた新たな用途と環境をユーザーに提供しているといえよう。 Ki Pro Miniへの期待 収録現場により重点をおいたKi Pro Miniが発表になったが、現場的にはどのように受け止めているのだろうか。 「Ki Pro MiniでCFカードが使えようになるのはうれしいですね。今回のもやしもんの撮影ではどのくらいの収録になるか読めないところもあってKi ProでHDDモジュールを使ったんです。CFカードはまだまだ容量の点ではHDDに及びませんが、コストや汎用性といった点で期待できます。」(森田氏) 「小型なので、現場的にもベースを組んで収録しなくてもカメラと一緒に運用できそうだし。欲をいえば、せっかく2枚のCFメモリーを挿せるなら、バックアップとして使えるように同時記録できるといいんですが・・。」(岩本氏) 「まぁ、ハードディスクに比べて信頼性の点ではメモリーの方がいいしね。結局は現場によってKi ProとMiniは使い分けということになるだろうね。ベースを組める現場ならKi Proかな。」(森田氏) 同時記録に対応するには、2枚のCFメモリーが同じものということが前提となるだろうが、実際は容量の違うものやスピードの違うもの、片方のメモリーにファイルが残っていて収録時間が2枚のCFカードで異なってしまうなどを考慮しなくてはならないだろう。 現状では、カメラ側にも記録機能が装備されているため、プレビューやオフライン用、最悪バックアップとしても利用できる環境があるので、Ki Proを使うメリットはやはりProRes収録ができることに尽きるといえる。ProResはFinal Cut ProだけでなくAvidなどメジャーな編集ソフトも対応しており、記録フォーマットイコール編集フォーマットということは、変換など少なからず画質に影響する操作や、取り込みにかかる時間などが必要なくなるというメリットが有る。Ki Proで収録することで、クォリティに影響を与えることなくワークフローをシンプルにすることができるというわけだ。今回のように合成を前提にした場合は、非圧縮という選択肢もあるものの現状ではワークフロー全体を考えた場合、得策ではないことは明らかだ。将来的に非圧縮が当たり前に使えるようになるころには、2K4Kへの対応が必要になり、やはりそこでも圧縮が付いて回ることだろう。インタビューで鈴木氏が言っていた「見えないところでコストを下げる」ということはクォリティに影響を与えることなくワークフローをシンプルにしていくことが将来にわたっても必要になってくるということであろう。 |